Monday, March 20, 2006

HPNとは

Home Paremental Nutrition(HPN)とは、簡単に言うと、自宅で中心静脈栄養法を行うこと。

じゃぁ、中心静脈栄養療法とは何かというと、IBDの患者さんが入院したときに決まって行うアレです。いわゆるIVH。

いろいろあってHPNをやってみることにしました。

HPNの適用

クローン病の場合、どのような場合にHPNが適用になるかというと
・ オペにより小腸の残存が少なくなりすぎた(短腸症候群)
・ オペ待ちで自宅待機
この二つの場合が多いようです。

短腸症候群
オペの結果、残存小腸があまりに短くなってしまい十分な栄養が吸収されない。
長期にわたってHPNを行う。

オペ待ち
入院して検査が一通り終わり、症状も安定。実際のオペまでに時間がかかる場合、病院にいても点滴につながれて寝ているだけなので、HPNで自宅待機。
オペまでの待機期間中HPNを行う。

余談だが、某社会保険中央病院では常時40人くらいがHPNを行っているらしい。

HPNで使われるカテーテルの種類

HPNにはヒックマンカテーテル、或いはポートのいずれかが用いられることが多いようです。

実際にはどのようなものかというと、
・ ヒックマンカテーテル
いつも入院時に入れられるであろうCVCの延長線上にあるようなカテーテル。
事故抜去防止の繊維がカテーテルについており、これが皮下組織と絡み合うことで抜けにくくなっている。扱いなどについては、入院時に入れるCVCとほぼ同様。

・ ポート(完全皮下埋め込み式カテーテル)
カテーテル部と、リザーバと呼ばれる針を刺す部分とで構成されるカテーテル。
点滴の度に針を刺す必要があるが、点滴を繋いでいない際は体外に露出している部分がないので、カテーテルの管理に気を使う必要も無く、入浴も可能。

因みに、ヒックマンカテーテルと同じようなシリコンラバー製のカテーテルでブロビアックカテーテルというものもある。現在はシングルルーメンの物をブロビアックカテーテル、ダブルルーメン以上をヒックマンカテーテルと呼ぶ。
なお、Hickman、Broviac共に商標。

ヒックマンかポートか①

ヒックマンカテーテルとポートはそれぞれ一長一短があります。
自分に合うと思う方を選んでください、と言われただけではなかなか判断できないので、それぞれのメリットデメリットを私的な視点で列挙してみます。

参考までに経腸栄養療法を並べてみましたが、優秀ですね、鼻チュー!
って鼻チューじゃ駄目だからHPN適用なんだった。

ヒックマンかポートか②

・挿入抜去の容易さ   ヒックマン:△ ポート:×
挿入について、ヒックマン、ポート共にオペ室で無菌的に入れる。ポートの場合、リザーバを皮下に埋める分どうしても大げさになる。
抜去について、ヒックマンカテーテルは処置室のようなところで簡単に抜けるが、ポートの場合は抜く際もオペ室で処置が行われるため、感染時も簡単に抜くことができない。

・感染しにくさ   ヒックマン:× ポート:△
ポートの方が感染しにくい、と一般的には言われている。

・メンテナンスの容易さ   ヒックマン:× ポート:△
ヒックマンカテーテルの場合、カテーテル刺入部付近の皮膚及びカテーテルの消毒、カテーテルとルートのジョイント部の消毒を行う。対してポートはヒューバ針を刺す際、リザーバ付近の皮膚を消毒。

・テープ負けしにくさ   ヒックマン:× ポート:△
ヒックマンカテーテルの場合、カテーテル刺入部の周りは常にドレッシングに覆われることになる。対してポートの場合、針が入っている時のみドレッシングでよい。

ヒックマンかポートか③

・カテーテル抜去後の傷跡   ヒックマン:△  ポート:×
ポートの場合、リザーバを挿入・抜去するための傷ができる。また、針を刺していた部分の皮膚が黒ずむ他、長期間同じ箇所に差し続けるとその部分の皮膚が壊死してしまう。ポートの最大の欠点か。

・間欠使用の容易さ   ヒックマン:× ポート:△
ヒックマンカテーテルは点滴をしていない間も体から出たままだが、ポートは針さえ抜いてしまえば後は何もなし。
ポートは間欠使用が基本、というか、そうじゃないと十分に恩恵が得られない。(元は癌の化学療法のための物だったそうで。)

・入浴・水泳   ヒックマン:× ポート:△
ヒックマンカテーテルの場合、入浴時に水が入らないよう厳重にドレッシングをしなければならない。また、どうしても水が入ってしまって刺入部が濡れてしまうということがあり、感染が心配になる。対してポートはヒューバ針を抜去後、30分以上経過すればドレッシング無しで入浴可能である。さらには温泉も水泳も可能。
ヒックマンカテーテルだと入浴時に刺入部付近が洗えないのが一番の難点か。

ポートを選びました

私の場合、
・肌が非常にテープ負けしやすい
・まだ若いので人前で点滴するのは嫌だ→夜間のみ点滴
という事情があったため、迷わずポートを選択。

CVCを入れて1週間もするとテープ負けで痒み+肌がぼろぼろという症状で悩まされる私が、ヒックマンカテーテルでHPNをするなんて考えられなかった。

実際にHPNを始めてからまだ日は浅いが、今のところ、私にはポートが合っていた、と思っています。

HPNを始める際にはヒックマンカテーテルとポート、どちらの方が自分に合いそうかよ~く考えてみてください。

リザーバの場所①

以前札幌で入院した際、たまたま隣のベットの方が鎖骨の下の辺りにリザーバを入れるオペを受けていた。今回、実際にポートを使っている人の話を聞きたいとお願いしたところ、その方は肋骨の下辺りに入れている。

図中の大きなグレーの丸がリザーバの位置。

いろいろ調べてみるにつけ、更には上腕(力こぶの外側)等にも入れられることが分かった。
これらの違いはというと、上腕に以外に入れる2ヶ所は鎖骨下静脈に針を刺してカテーテルを挿入、皮下トンネルを作ってそれぞれの場所までカテーテルを通し、皮下にリザーバを埋め込む。つまりこの2つは皮下トンネルの距離が違っているということになる。
上腕に入れる場合、尺側皮静脈(腕の内側にある静脈)を切開してカテーテルを挿入、上腕外側へ向かって皮下トンネルを作成し、ちょうど力こぶの外側辺りにリザーバを埋め込む。

リザーバの場所②

3つ選択肢があり、それぞれどういうものかはなんとなく分かった。では、埋め込まれる側の視点としてどう違うのかまとめてみる。

鎖骨の下にリザーバ
短所
・鏡がないと消毒や針を刺すのが大変。
・裸になって鏡を見るとリザーバが目立つ。

因みに何も言わなければここに入れられる場合が多いとのこと。

肋骨の下にリザーバ
長所
・鏡無しでも消毒や針を刺すのが簡単。
短所
・長い皮下トンネルを作るので、オペでポートを入れる際、何十箇所もに麻酔注射を打たれるため非常に痛い。(贅沢?)
・裸になって鏡を見るとリザーバが目立つ。しかし鎖骨の下に入れるよりは目立たない気がする。 (気のせい?)

上腕にリザーバ
長所
・目立たない。特に女性の場合、皮下脂肪のためにビックリするくらい目立たなくなる。
短所
・針を刺す際、リザーバが入っている側の手が使いづらいので若干不便。
・鎖骨の下、肋骨の下に入れる場合と違い小さなリザーバを入れることになるため、寿命が短い。

どこに入れることにしたかというと

毎朝シャワーを浴びて裸になる度にドーンとリザーバの部分が出っ張っているのを見るのが嫌である、また、今のところ鎖骨の下、肋骨の下には大きな傷がないのでどうしても切りたくない、という強い思いがあっため上腕に入れることを希望し、それが認められた。
私にとっては非常に重要なことだったのでホッと一安心。

実際に上腕にポートを入れてHPNを行っているわけだが、針を刺す際に片手が使いづらいことについは工夫と慣れで対応でき、今のところ不便は感じていない。

実際にポートを入れる

ポートを入れるオペ+輸液の作成やら消毒やらの練習でtotal1週間ほどの入院が必要となる。
私の場合、ポートを入れるオペを行った病院と、実際に毎月輸液やルート、衛生材料をもらう病院が異なるため、ポートを入れるために1泊、病院を変えてHPNの練習という少々変則的なことになった。
病院により使用しているポンプやらルート、衛生材料、その他細々したものまでが変わってくることため、練習は掛かりつけの病院で行った方がよいだろうとの判断からだ。

上腕(力こぶの外側)にポートを入れたわけだが、手術に要した時間は1時間弱。局部麻酔にて入れました。
腕から指先にかけて電気が流れたような衝撃がオペ中に何度もあり非常に恐ろしかったが、どうやらそういうものだったらしい。

オペをしている間中、1人でギャーギャーお祭り騒ぎ。

病院にてHPNの練習

ホームの病院に戻って、日々の作業の練習。
具体的には、
・輸液の作り方
・衛生管理
・ルートの作成
・針の抜き差し
・ポンプの使用法
というようなことを教えてもらった。

教える看護師さんによって教えてくれる方法、注意点等に違いがあると思われるので、積極的に複数の信頼できそうな看護師さんにに声を掛けてアドバイスをもらいましょう。分からないことは全て確認をとり、看護師さんが分からない場合は当然調べてもらいます。
もしもの時に困るのは自分なのですからここは積極的に。

2,3回行えばやり方自体は覚えられたが、スピードアップにはなかなか時間を要した。 ちょっと慣れてきたあたり冷汗をかくようなミスをしたことも。

実際に自宅で

病院で行うのと自宅で行うのとでは大違い。

初めて家で点滴の準備をした際、病院で練習していたときの倍以上時間が掛かってしまった。何にそんなに手間取ったかといえば、ルートのエアー抜きの作業だ。
入院中は点滴台に輸液バックを掛けてルートのエアーを抜いていたのだが、当初点滴台は購入せず、ちゃぶ台の上で作業を行っていた。そうすると、ルートの先端と輸液バックまでの高低差があまりつかず、うまくいかない。
3,4日もすれば慣れはするがどうしてもスピードアップできない。思い切って点滴台を購入することにした。HPNを始めて12日目現在では点滴を開始する際、手を洗って準備~全て終わってゴミを片付けるまで30分程掛かっている。点滴を終了する際は10分ほどで終わる。

その他、家でやって初めて気づいたことといえば、
・衛生材料、輸液などが非常に場所を取る。
夜間のみしか行わないのに310*420*220のダンボール箱が6箱も・・・。
・準備、後片付けににも時間が掛かる。
始める前にテーブルを片付けてアルコールティッシュで拭く、必要なものを全てテーブル上に並べるということや、終わってからもゴミの処理、こぼした輸液だとかを掃除する、こんなことにもバカにならない時間が掛かります。
・非常に多くのゴミが出る。
輸液、ルート、シリンジ、衛生材料、そのほとんどがプラスチックで包装されていたり、使い捨てであるため、毎回結構な量のゴミが出る。
輸液の殻、ルート、シリンジ及び針を全て病院まで持って行き医療廃棄物として処理しなければならないのだが、1ヶ月分ともなると45Lのゴミ袋1つ分くらいの量。輸液が結構残ってしまうので重くてかさばる。

いくら掛かるのか

HPNに掛かる費用を紹介します。
ポートを入れるオペ、HPNで使用するポンプ、輸液、衛生材料などは基本的に保険適用となります。よって、特定疾患の認定を受けている場合は毎月その限度額までのお金が掛かります。
さらに、一部自費で購入しなければいけないものがあるのでそれを紹介します。

ワンショットプラス EL-II(消毒用アルコール綿) 100包入り¥860
多くの病院で使われているであろう個別包装の消毒用アルコール綿。個別包装のものと複数枚がバックに入っているものとがあるが、個別包装の方が当然安全。
メーカのwebsiteにはどういうわけか個別包装のものが紹介されていないが、調剤薬局で購入。
私の場合、1回の点滴あたり3包使用。

液体ミューズ 250ml¥525
点滴の準備を始める際に手を洗いましょう(当然)。

ペーパータオル 200枚入り¥?
手を洗ったあとは、ペーパータオルで拭きましょう。キッチンペーパーを使用する、という人もいるようです。ズボンで拭くのはもちろん、タオルで拭くのもよろしくないようです。

結局必要最低限でいくと1ヵ月に毎月の限度額+¥2000弱くらいでしょうか。
因みにポートを入れるオペ、私の場合1泊2日で¥49940でした。(自己負担率30%)

あると便利なもの①

・点滴台(イルリガードル台) 私が買ったのは¥9000
これがあるといかにも点滴という雰囲気がでてよいです(笑)病院を通して出入りの業者から購入。
私の場合、毎日脂肪乳剤の点滴を行っているのですが、こちらは高カロリー輸液と違いポンプを使って滴下の管理をしていません。よって、輸液は常に自分の心臓より上にしておかなければならないので、点滴台がないと狭い部屋の中の移動すら億劫になる。
googleで点滴台と検索してもほとんどヒットせず、イルリガードル台と検索すると卑猥な物を販売しているサイトばかりヒットするだけで目的の情報が出てこない。今のところ、病院でカタログを見せてもらうほか情報を得る手段がないようだ。

・イソジンが予めしみこんでいる綿棒 ¥?
消毒に使用する綿棒には予めイソジンが染みこんでいるタイプのものもある。 こちらのほうが圧倒的に便利なので、病院に使用できないか問い合わせてみては。 因みに、私は病院に1度断られた(涙)再度交渉してみようと思う。

・誤抜去防止のキャップ ¥無料
輸液バックとルートが外れないようにするためのキャップ。調剤薬局にて無料でもらえる。テルモさんあたりがばら撒いているのかな?
輸液バックからルートが外れることはなかなか無いと思うが、もし外れたら布団が輸液まみれ。ベタベタしてビタミン臭い輸液が布団に・・・なんて考えたくない。転ばぬ先の杖ということで。

あると便利なもの②

アルガーゼ(アルコールティッシュ )100枚入り¥840
消毒用アルコールを染みこませているウェットティッシュ。点滴の準備を始める前にこれでテーブルを拭いている。本当にアルコールで拭く必要があるのかは?単なる気休めかもしれないが、気が休まるならそれでいいじゃない。

・ゴージョー® MHS(手指殺菌消毒剤) ¥1500くらい?値段失念
いざヒューバー針を刺すぞ、という時に使用。
手洗い後、輸液の準備などをするわけだけれども、その際に輸液の包装等を触っている。そのままの手でヒューバー針を刺すのにどうしても抵抗があり使用している。
手指殺菌消毒剤にはウェルパスという商品もあり。その違いはゴージョーがジェル状なのに対し、ウェルパスは液状。殺菌効果には違いは無いらしい。

メトロノーム ¥2900
脂肪乳剤の滴下速度を合わせるときに使用。
もちろん新規に購入したわけではなく、家に転がっていたのをたまたま使ってみたらちょうど良かったという話。メトロノームを使えば10秒に何回落ちているから云々ではなく、滴下ごとにスピードを合わせられるので早く、正確で楽チン。どうせ動き回るんだから精度はそれほど必要ないだろう、なんて野暮な突っ込みは受け付けません。

終わりに

「ポートを入れることよりも、それを維持していくことの方が重要」 とは私の腕にポートを入れてくれた医師の言葉。
どれだけ慎重に行っても決してリスクが0になることは無いが、少しでも感染のリスクを減らすべく毎日の操作を確実なものに。

医療はどんどん進んでいきます。積極的に情報収集してよりよいQOLの獲得を。

私の一体験を元にこのコンテンツを作成しました。
できる限り情報は正確に記載したつもりですが、あくまで2006年初頭における一患者の個人的な体験でしかありません。最終的な判断は掛かりつけの医療機関に相談し、ご自分で。

このコンテンツが元で発生した、いかなる損害に対しても私necoは一切の責任は負いかねますのでご了承ください。

Appendix①:脂肪乳剤は何のため?

イントラファット、イントラリポスなどの脂肪乳剤があるが、これは何のために使用するのか。

必須脂肪酸欠乏症の予防のためというのは聞いた人も多いかもしれないが、脂肪肝の予防としても脂肪乳剤は欠かせないものだということだ。余談ながら後者のことについては、今回HPNを始めるにあたって色々調べて始めて知った。IBD患者には比較的身近なTPNだが、案外知らないことが多いものだ。

適量の脂肪乳剤が投与されないていない場合、高インスリン血症となって脂肪の合成が進み、肝臓に脂肪沈着→脂肪肝とということが起こってしまう。その予防ため脂肪乳剤が必要になるという。

さらには脂肪乳剤は十分時間を掛けて投与されなければならないらしい。速い速度でいくら投与しても、全く無駄で、悪影響しかでないとのこと。
投与の目安としては、20%のものなら20~25ml/h以下(*1)が推奨されている10%のものなら当然その倍速でOK。投与速度が速過ぎると高トリグリセリド血症(要するに高脂血症)を生じるそうだ。なんと恐ろしい。 この辺のことは医師から看護師さんに伝わっていなかったりもするらしい。

P.S.
イントラファット注10%のパッケージには
[点滴速度]72分以上/200mLという記載があるよ、と看護師さんから教えてもらった。しかしこれだと明らかに早すぎる。(*2)
武田薬品、犯人はおまえかぁ!

Appendix②:吸収糸

ある日ポートを入れるオペの傷口から紫色や透明な糸が頭を出してきたのに気づいた。オペの直後にそんなものは見当たらなかったので、体が異物を排除しようとして表面に出てきたのだと考えられる。

気になって引っ張ってみるとなんだかするする抜けていく(汗)
15mmくらい抜けたところでそれ以上抜けなくなった(冷汗)
糸が出ている部分を消毒した後、病院に電話を掛けて相談。

外科の先生曰く、それは皮膚をつなぎ合わせるために使った吸収糸で、抜けるなら抜いても大丈夫。抜けないなら根元の部分で切り離し、後は放っておけば数ヵ月後には吸収されてなくなるとのこと。もちろん、消毒の必要もなし。
それを聞いてホッと胸をなで下ろしました。

Appendix③:ヒューバー針の秘密

ポート用にはヒューバー針(コアレスニードル)という特別な針を使っている。
何がどう特別かというと、針をリザーバーに刺す際、セプタム(※1)を極力刳り貫かないようになっているのだ。 以下にそれぞれの絵を書いてみる。

まっすぐ上に向かって刺すことを考えると、普通の針の場合、針の空洞の部分が刳り貫かれてしまう恐れがあるのに対し、ヒューバー針ではその可能性が少ない。ナイスアイデア。

※1 セプタムとは、リザーバの針を受ける部分。圧縮シリコンでできている。

Appendix④:ヒューバー針あれこれ

ヒューバー針には針の長さの異なるものがいくつか存在する。
針が長すぎて浮き過ぎて困るという場合、短い針に変えることである程度対応できるので病院と相談するとよい。相談しても「そんなの無い」と門前払いされるかもしれないが、間違いなくあるので調べてもらうこと。
私が使っているのは二プロのコアレスニードルセットで、針の長さが16mmのもの(2006年3月現在)。病院では5/8インチのコアレスニードルが欲しい、というように注文しました。

さらに針を刺すのがどうしても痛いという場合、ヒューバー針のメーカーを変えることで対応できる。 メディコンが輸入しているBardAccessSystemsというところの針は痛くないが、私が使っている二プロの物は痛みが強い。
BardAccessSystemsの物を使いたいところだが、これだと針の長さが20mmと長すぎるのだ。 包丁と同じで、ヒューバー針もメーカーによって切れ味が違うようです。

※ 針によって傷みが違うというのは私が勝手に吹聴しているわけではなく、そういうものだと教えてもらった後、実際に自分で確認しています。誤解無きよう。

Appendix⑤:輸液のメニュー

2006年5月現在、私のメニューは以下の通り。

毎日
 ・ピーエヌツイン3号*1 約135ml/h 約9h
 ・ビタジェクト(ビタミン製剤)*1 (ピーエヌツインに混注)
 ・エレメンミック(微量元素製剤)*1 (ピーエヌツインに混注)
2日に1日
 ・イントラファット10%200ml 約40ml/h 約5h (フィルター下部のト字側管より側注)

ピーエヌツインはテルモのカフティーポンプにて滴下を管理
イントラファットは自然滴下

TPNでよく使われる輸液というと、
・ピーエヌツイン
・フルカリック
の二つでしょうか。(まだまだたくさん種類はあるようですが)
こいつらに共通して入っているものはと言うと、
糖 アミノ酸 電解質 水分
以上4つ。
TPNの輸液としては上記の他、ビタミン、微少容量元素、が必要ということになっている。

ピーエヌツインとフルカリックの違いはというと、
フルカリック  :1バックあたり、1日に必要なビタミンの1/2が入っている
ピーエヌツイン:ビタミンが入っていない
その他の組成は基本的に同じものと考えて差し支えないらしいです。

ビタミンの有無がどのような違いを生み出すかというと
ビタミン剤があらかじめ入っている→ビタミン剤を混注する必要が無い→輸液のバックに針を刺す回数減少→輸液が細菌等に汚染されるリスク低下
ということで、最終的には感染のリスク低減に一役かっていることになります。(もちろん必要な操作が1つ減るわけだから必要な手間も↓、手間が減ったことによりミスが起こる可能性も↓)

まぁ、フルカリックも微少元素製剤を混注しなければいけないので輸液のバックに針を刺さなければいけないのですけれどね。

それじゃぁ、何故にピーエヌツインを使っているのかというと、私のメニューは前述のように1日1バック、といういことは、フルカリックを使うと1日に必要なビタミンの半分を口から摂取しなくてはいけない→今の私にはNG、そういうことです。

Appendix⑥:脂肪乳剤をゆっくり落とす

Appendix⑤にて、脂肪乳剤を約40ml/hで落としていると書いたがこれにはちょっとした工夫がある。

ピーエヌツインの方の輸液ラインは15滴/1mlのものを使用しているが、脂肪乳剤を入れる方は60滴/1mlの輸液ラインを使用している。入院時は脂肪乳剤を入れるのにも15滴/1mlのものを使っていたが、これだと40ml/h(10滴/1m)という滴下速度に合わせるのは至難の業。ということで病院では「小児用の」と呼ばれている輸液ラインを使うことにした。(私がそうしたい、と言ってそうしてもらった。)
脂肪乳剤の滴下速度にそこまでシビアになる必要は無いとは思うけれど、それなりに合わせる方法があるのならそっちを採用、ということで。

脂肪乳剤は寝ている間に終了することになるけれど、輸液のラインにはポンプの圧力がかかっているため、脂肪乳剤が終了することによりラインにエアーが入る、或いはCVCへ逆血してしまう、ということは起こりません。脂肪乳剤を始めたらそれっきり、安心して放置プレイです。

問題になるとすればポンプの圧力によるピーエヌツイン→脂肪乳剤のラインへの逆流です。(ピーエヌツインの輸液が脂肪乳剤のラインの方に逆流し、脂肪乳剤が落ちない!)
脂肪乳剤がピーエヌツインのラインへと入っていく力=脂肪乳剤のラインの水圧-ピーエヌツインのラインの水圧
ということで対処としては、
①脂肪乳剤を高いところに吊るす(脂肪乳剤のラインの圧力↑)
②ピーエヌツインの滴下速度を下げる(ポンプのラインの圧力↓)
の2つの方法があります。

どちらで対処してもよいのですが、我ウサギ小屋の天井はそんなに高くないので②の方法で対処しています。いろいろ実験君をした結果、私の環境では脂肪乳剤の側注を行っている際のピーエヌツインの最大滴下速度は約135ml/hということになっています。

※ここで「約」という微妙な言葉に注目。
この限界の速度と言うのが日によって微妙に違うんですよ、これが。同じ姿勢を保っても違ってしまうので、おそらくはその日の血圧によって限界は変わってくるのではないかと。(全く自信ナシ)
血圧:Pb
ピーエヌツインのラインの水圧:Pt
脂肪乳剤のラインの水圧:Pf
とすると、
ピーエヌツインが血管中に入っていく力=Pt-Pb
血圧(Pb)は毎日若干違っていて、ピーエヌツインのラインの水圧(Pt)はポンプがこちらの指定した滴下速度とPbにより変動する、つまり、ポンプの滴下速度を一定にしておけばPb↑となるとPtも↑ということになるから・・・。

Appendix⑦:陽圧フラッシュ

ヒューバー針を抜く際、どんな操作をしていますか?

ヘパリン(or生食)を入れ終えてから針を抜く?
ヘパリン(or生食)を入れながら針を抜く?

私は後者です。
そして後者のような操作を「陽圧フラッシュ」といいます。

フラッシュとは、カテーテルの中を生食やヘパリンを通し、満たしておくことで
・カテーテルを洗浄する
・安定な物質でカテーテル内を満たしておく
・カテーテルの閉塞を予防する
以上のような目的のある操作です。今回のネタ「陽圧フラッシュ」は3つ目、カテーテルの閉塞予防に非常に大きな効果があります。

ヘパリンを入れ終えてからヒューバー針を抜くと、針の体積分だけ血管内から血液が逆流してしまいます。カテーテル内に血液が逆流しまうとそこで固まり、カテーテル閉塞の原因となります。それならカテーテルにヘパリンを入れながら(圧力を掛けながら)針を抜いてそれを防止しようじゃないか、こうわけです。

私の場合、20mlの生食でフラッシュした後、10mlのヘパリンでフラッシュしているのですが、ヘパリンが9mlくらい入ったところでヘパリンを入れる力はそのままにヒューバー針を抜いています。

針が抜けた途端ヘパリンがピューっと出てきますが、これが成功の証。とっても簡単なので、1回目から難なく成功することでしょう。

入院中、ヘパロックして外出し、帰ってきたところで「えっ、輸液の通りが悪いんだけれど...。」なんて嫌な経験を何度もしたことがありますが、それも陽圧フラッシュをしていれば無くなることでしょう。病棟の全ての看護士さんにも、この操作を覚えていただきたいところです。看護士さん向けの入門本(*3、その他多数)にはしっかりと書いてありますから・・・。

私が始めて陽圧フラッシュなる言葉と出会ったのはポートの取扱説明書。
ポートを入れた際に「この取説、頂戴」とお願いしたら快く渡してくれました。
そこには「必ず陽圧フラッシュすること」との注意書きがありましたが・・・。

「陽圧フラッシュって知ってる?」って聞いても
某病院の看護師さんが答えられなかったのはココだけの秘密(涙)

陽圧フラッシュの効果は静脈留置針のロックにおいても同様であり、
看護師さん各位については、確実に覚えていただきたく(懇願)

# ヘパリンの前に行っている生食フラッシュは脂肪乳剤を洗い落とすためのもの。
# ポートのカテーテルに「逆流防止弁」付のものを使っている場合もあり、その場合には陽圧フラッシュの事を考えなくても平気だとのこと。

引用・参考文献

引用文献
*1 井上 善文 : TPNレクチャー-処方・手法・管理のフォトブリーフィング-.南江堂:156-157,2004
*2 入山 圭二 : 脂肪乳剤の構造と代謝特性.JJPEN20:841-847,1998
入山 圭二 : 脂肪代謝.日本臨床 59(増刊号):397-400,2001

参考文献
井上善文 著 : 早わかり静脈栄養(TPN)管理ノート.照林社,2006

*3 東口高志 編 : 栄養管理Q&A(No.8), 全科に必要な栄養管理Q&A-初歩的な知識からNSTの実際まで-.総合医学社,2005


実際に持ってる本の紹介
・TPNレクチャー
NutritionSupportTeamの人に薦められた書籍。借用して一読させてもらった後、購入。 TPNの適用、輸液の決定、実際のカテーテル挿入手法等が豊富な写真を用いて解説されている。医師向けの本であるが、医療従事者以外の人でも十分理解できる。

・早わかり静脈栄養(TPN)管理ノート
NST向けの書籍。TPNレクチャーの内容をコンパクトにまとめたような内容で、患者サイドとしてTPNの勉強をするならこれ1冊で十分。内容が濃いのに価格が安いのも非常に大きな魅力。TPNレクチャーに掲載されていない事項も一部掲載されている。

・栄養管理Q&A
看護師さん向けの書籍。中心静脈栄療法、経腸栄養療法についての様々な項目が分かりやすく書かれている。 これも医療従事者以外の人でも十分理解できる。